シナリオ原稿(前半)

(※ 原作でセリフがカタカナ表記のキャラクター「ピーアール」なども読みやすさを
優先して普通の表記にしてあります ※)

100年後の未来の病院。
ネズミに耳を囓られ、体が青くなった日のこと。

頭に包帯を巻いたドラえもんが病室のベッドに寝ている。
ネズミに耳を囓られたことと、体が青色になってしまったショックで、
完全に意気消沈している。
そこへ花束を持ったドラミが現れる。
ドラミ「明日には退院出来るそうよ」
ドラえもん「……」
返事のないドラえもんにドラミはため息を吐く。
ドラえもん「もうネコ型ロボット失格だよ」
ドラミ「そんなことないのに……」
ドラミ「そうだ。鈴、やっぱり壊れてるって」
ドラえもんは耳が囓られた日を思い出す。
狂乱したドラえもんは暴れ回り、鈴が壊れてしまったのだった。
ドラミ「新品にする?」
ドラえもん「じゃあ……」
新品に……と言いかけたドラえもんが口籠もる。
ドラえもん「いや、やめとこう」
それは不良品となってしまった自分と、壊れてしまった鈴とを重ね合わせているのだ、とドラミは理解する。
ドラミ「……そうね、そうしましょ」
ドラミは微笑んだ。

時は現在。
現在ののび太の部屋。
ドラえもん「うん」。
その日を思い起こしていたドラえもんは、何かを決意したように頷き、タイム電話を取りだした。
ドラえもん「もしもし……」

その頃、現代の空き地。
のび太、ジャイアン、スネ夫が一角に集まり、スネ夫の持っているタブレット機器を覗き込んでいる。
液晶に映し出されているのは、北海道の光景だった。時計台に、五稜郭。100万ドルの夜景が鮮やかに液晶に映る。
スネ夫「新しいSUNEPAD(スネパッド)はキレイだろ!」
のび太「いいなあ」
ジャイアン「これで撮影したのか?」
スネ夫「動画も撮影出来る! そう、SUNEPADならね!」
ジャイアン「じゃ、オレを撮ってくれ」
スネ夫「よーし、Sune(スネ)! 録画開始!」
Sune(スネ)「録画開始シマス」
ジャイアン「おう。もちつもたれつ フレンド・オブ・ザ・ハ~ト!」
ジャイアンは歌いながら踊り、最後にポーズを取る。
スネ夫「これを編集しよう! チョチョイとね! ホラ出来た!」
SUNEPADには、空き地で踊っていたはずのジャイアンが、どこかのコンサートホールのステージで踊っている光景が映し出されていた。
ジャイアン「ど、どうなってんだ!?」
スネ夫「動画を合成出来る。そう、SUNEPADならね!」
ジャイアン「へー」
得意げなスネ夫の態度が、のび太には徐々に不快になってくる。
のび太「なんだい。ドラえもんの道具にはまだまだだね!」
スネ夫「ハハハ。ひみつ道具の時代もすぐそこさ! プロジェクションマッピングって知ってる? 壁に映像を映す最新技術さ!」
ジャイアン「それで部屋がライブ会場になるのか!?」
スネ夫「そう。もうのび太に偉そうな顔させないぞ」
のび太「チェッ、よく言うよ!」
ジャイアン「次はプロなんとかマッピラでリサイタルだ!」
スネ夫「ぼくの家で!? マッピラごめんだよ!」
そんな会話の様子を、つまらないと感じたのび太は二人から顔を背けると、道を歩く静香の姿を見つける。
のび太「静香ちゃーん!」
その声に振り向いた静香の顔は涙ぐんでおり、のび太たちは目を丸くする。
静香「実は……、真珠のネックレスを落としちゃったの」
のび太「ええっ!」
スネ夫「警察には?」
静香「とっくに聞いたわ。きっとピアノ発表会の帰りにどこかで……」
スネ夫「……任せて! 探し物はきっと見つかる。そうSUNEPADならね! 真珠の落とし物情報をツイートする!」
SUNEPADがSNSのアプリを起動する。
スネ夫「ぼくフォロワー13万人いるんだ! 情報は拡散される!」
ジャイアン「よくわかんねえけどすげえな!」
のび太「大丈夫かなあ?」

その頃の野比家。
のび太の部屋ではドラえもんが、のほほんと、うたた寝をしている。
箱を持ったスネ夫のママが玄関先にやってくる。
スネ夫ママ「ごめんくださいまし~」
のび太のママがドアを開けて出迎える。
のび太ママ「あ~ら奥様」
スネ夫ママ「これは北海道のおみやげ……」
その瞬間、鼻をひくつかせたドラえもんが突如飛び起き、鬼の形相で一階へと駆け下りる。
その勢いのまま、ドラえもんはママ達がいる玄関へとやってきた。
ドラえもん「奥さんッ!!」
何事かと驚くママ達。
ドラえもん「この匂い、どら焼き!? 大納言小豆だね!」
的確に言い当てるドラえもんに対し、呆れかえったように引くママたち。
スネ夫ママ「よ、よくわかったザマスね……」
ドラえもん「蒸気で炊いた国内産小麦! 卵も新鮮! まさに究極のどら焼きだ……!」
既にドラえもんの口からよだれが出ている。
のび太ママ「のび太と分けるのよ」
ドラえもん「うん!」

ドラえもん「う~ん、おいち~い!」
のび太の部屋で、ドラえもんは涙を浮かべながら最高級どら焼きに舌鼓を打つ。
ドラえもん「あ……?」
しかし、あっという間に食べ終わってしまう。
ドラえもん「これは、のび太君のぶん……」
今眼の前に残り2つあるが、これはのび太の分である。
座禅を組み、どら焼きをなるべく見ないようにするが、どうしてもどら焼きに目が行ってしまう。
ドラえもん「ダメだ、だめ、だめぇ……!」
ドラえもんの溢れるよだれ。見開く瞳孔……。
明らかに我慢は限界に達していた。

その頃の空き地。
大あくびをするのび太と、焦っているスネ夫。不信感が募り始める、ジャイアンと静香。
のび太「まだぁ?」
スネ夫「もっと情報を絞り込む!」
ジャイアン「拾われたかもな」
静香は泣き出す。
静香「あの真珠はママの大切な思い出があるのに!!」
のび太「安心して。ぼくが見つけるから!」
スネ夫「なんだと!?」
のび太「待っててね~!」
のび太は野比家に走る。

のび太「ドラえも~ん!」

のび太の部屋。
のび太「ドラえもん!」
背後から掛けられたのび太の声に、ドラえもんは一瞬震える。
ドラえもん「お、おかえり……」
のび太「実はさ……」
のび太「……というわけだ。なんとかして!」
ドラえもん「わかった。でも、まずはおやつどう?」
のび太「おやつより、落とし物を探す道具だよ!」
そう言いながらも、のび太はどら焼きを食べる。
食べている間、包み紙を眺めながら首を傾げる。
のび太「……これが超高級? 大したことないね」
ドラえもん「うっ!?」
ドラえもんは冷や汗を流す。
ドラえもん「し、真珠を早く探さなきゃね!」
焦ったようにドラえもんはポケットをまさぐり、道具を取り出す。
ドラえもん「「シャーロック・ホームズセット」と「連想式推理虫メガネ」!」
のび太「ホームズセットって、こんな色(ピンク色)だっけ?」
ドラえもん「ぼくの壊れてて、それドラミのなんだ」
のび太「エー、女物!? 使えるの?」
ドラえもん「ダメなら、連想式推理虫メガネ使ってよ」
仕方無しという顔を浮かべながら、のび太はホームズセットを身に着ける。
のび太「推理ぼう。ここを叩くと頭が冴える」
のび太は軽く指で帽子のつばを叩く。
ドラえもん「どう、何かわかった?」
のび太「わかったよ……」
のび太は自信満々の顔でドラえもんの顔にビシッ! と指を差す。
のび太「どら焼きの味が、おかしい理由がね!」
ドラえもん「ハッ!?」
ドラえもんは内心で「しまった!」と汗を大量に流す。
のび太「君は安物のどら焼きを、包み紙だけすり替えたんだ!」
ドラえもん「うう……っ!?」
まさに図星だったので、ドラえもんは更に焦り出す。
ドラえもん「そ、そんなことしないよ!」
のび太「実は、目撃者がいたのだよ」
ドラえもん「ナヌ!?」
ドラえもんは部屋をキョロキョロするが、当然のび太の他に誰も居ない。
のび太「それは、カブトムシのカブ太くん!」
のび太が指差したのは、前作、奇跡の島で共に冒険したカブトムシのカブ太くんである。それを見てドラえもんは思わず吹き出した。
ドラえもん「アハハ! カブトムシは喋らないよ!」
のび太「『手がかりレンズ』! これに映るは事件の手がかり! 君のポケットが見えているぞ!」
のび太「虫が喋る道具、そこにあるんだね?」
ドラえもん「ぐぬぬ!?」
ドラえもん(小声で)「……マズイ。そうだ!」
ドラえもん(小声で)「『入れ替えロープ』! これで虫とぼくが入れ替わって……」
のび太の目が光る。
のび太「なんだね? それは」
ドラえもん「こ、これは~!」
のび太「レンズに映ってない。没収!」
ドラえもんの手からロープがのび太に取り上げられ、のび太はロープを部屋の片隅に投げ捨てる。
ドラえもん「ああっ!?」
のび太「虫と入れ替わる? 戻れなくなるよ!?」
ドラえもん「ハァ~~」
観念したように、ドラえもんが大きく溜息を吐き、新たな道具を取り出す。
ドラえもん「おしゃべりドリンク!」
のび太はレンズを覗きながら、ドラえもんの説明を聞く。
ドラえもん「おはなしボックスのドリンク版。何とでもおしゃべり出来る」
のび太「なるほど! さっそくカブ太くんに使おう!」
真相がばれることに恐怖するドラえもんは、指が震えながらもドリンクの蓋を開けるが、その直後、手汗でドリンクのビンがツルッっと手から滑る。
ドラえもん「うわあっ!?」
ドリンクが宙を舞い、中からドリンクがこぼれ、ドラえもんに思い切り降りかかってしまった。
ドラえもん「ウエ~ッ」
のび太「ドリンクが!」
のび太は床に転がるドリンクを拾い上げ、ビンを覗き込むが数滴しか残っていなかった。
のび太「あーあ」
ドラえもん「うわああ! ビチョビチョだ! も~~う!」
のび太は嘆くドラえもんを気にせずに、数滴をカブ太君に振りかける。
カブ太「どら焼きを食べたのは、ドラえもん!」
のび太「ホラ見ろ、やっぱり推理は正しかった!」
ドラえもん「それより、早く真珠を探せば!?」
のび太「そ、そうだった! 待ってて、静香ちゃ~ん!」
のび太は慌てて、家から飛び出していった。
ドラえもん「フゥ……」
ドラえもんは鈴とポケットを取り外し、日乾しにする。
ドラえもん「コーティングされてるし、大丈夫だろ」
ドラえもんはそう呟き、再び鈴の壊したあの日へ思いを馳せるように、窓辺から青い空を見上げるのであった。

空き地では未だにスネ夫達が悪戦苦闘していた。
のび太が浮かれたようにやってくる。
のび太「ヤー、諸君! 調子はどう!?」
ジャイアン「全然ダメだ! 何がスイーツっつうの!」
スネ夫「それはツイートだよ!」
静香「どうしよう……」
のび太「ぼくにまかせな!」
のび太は再び推理ぼうを指で弾く。
のび太「フーム。ピアノ発表会の帰りなら、君はいつもと違う状況だ」
スネ夫「当たり前じゃないか」
のび太「違うのはペンダントの存在と服だ。ということは、ペンダントは君の服の中だ!」
静香「ええっ!?」
静香はのび太達に背を向けて、お腹の周りを摩ってみる。そして。
静香「あっ!?」
静香「ごめんなさい、あったわ」
照れたように静香はペンダントを掲げる。
のび太「着慣れていない服なら気付かない。ペンダントなら服の中へ落ちても不思議じゃない」

(静香の服のイメージ)


のび太「発表会で疲れていることも、分からなかった理由さ」
ジャイアン「なるほど……」
スネ夫「そんなの当てずっぽう! 言い訳をくっつけただけだ!」
のび太「すべての不可能を消去して、最後に残ったものがいかに奇妙なことであっても、それが真実となる!」
スネ夫「それは、シャーロック・ホームズの言葉!?」
のび太「君に足りないのは、ヒラメキだよ」
スネ夫「ぐぬぬ……」
静香「ありがとう、のび太さん!」
のび太はキザっぽく静香に向けて膝を付く。
のび太「真珠より輝く、あなたの笑顔を守れて光栄です」
静香「まあ!」
スネ夫「何言ってんだ!」
のび太「明日、その顔を更に輝かせてみせよう!」
静香「えっ?」
ジャイアン・スネ夫「?」

夕方の時間。野比家、のび太の部屋。
日乾しになっているポケットを見つめながら、ドラえもんはガッカリと肩を落とす。
ドラえもん「ポケットが四次元に繋がらないんだよ」
のび太「ええっ!?」
ドラえもん「明日も干して様子みるけどね……」
のび太「フゥン。ところで、明日はみんなを北海道に連れてってよ」
ドラえもん「なっ、何で!?」
のび太「どら焼きを食べた責任を取りなさい」
ドラえもん「道具も使えないのに……」
のび太「生もののどら焼きは、現地で食べるのが一番美味しいってさ!」
ドラえもん「ナヌ!?」
のび太「風味がいっそう違うらしいよ!」
ドラえもん「何が何でも明日北海道に行こう!!」
のび太「決まりだね!」
ドラえもん「明日までに直るといいけど……」

真夜中ののび太の部屋。
のび太達がとっくに寝ている夜更けに、ドラえもんの鈴が、奇妙な光を発して光り出す……。

朝ののび太の部屋。
遅刻しそうになっているのび太が慌てて駆けだしていく。
のび太「行ってきまーす!!」
ドラえもんはその光景を見送ると、窓辺に干していたポケットと鈴に目を向ける。
ドラえもん「あれ!? 鈴がない!?」
ポケットはあるものの、鈴が消えている。
ドラえもん「そうだ! 昨日道具を仕舞えなかったから、ここにあるんだ!」
ドラえもんは部屋の片隅に置いてある道具の中から「連想式推理虫メガネ」を拾い上げる。
ドラえもん「『連想式推理虫メガネ』! さっそく推理開始!」

ドラえもん「ギャアアアアアアアアアアッ!!」
野比家を揺るがすほどの、ドラえもんの悲鳴が轟く。

放課後の時間。
のび太の部屋に、のび太、ジャイアン、スネ夫、静香が入り込んでくる。
のび太「さあ、北海道に行こう! ってドラえもん!?」
伸びているドラえもんを前に一同は不思議がる。
のび太「どうしちゃったのさ?」
ドラえもん「うう……」
ジャイアンはニヤニヤしながら冗談を言う。
ジャイアン「大変だ、ドラえもん。体が真っ青だぞ!」
静香「元から真っ青でしょ!」
悪気は全く無い静香のツッコミが入る。
スネ夫「ドラえもん、おヒゲが伸びてますよ!」
ジャイアン・スネ夫「アハハハハハ!!」
のび太「静かにしてよ!」
ドラえもん「鈴が……」
のび太「えっ?」
静香「そういえば、鈴はどうしたの?」
ドラえもん「うう……」
ドラえもんは意識を失った。
のび太「よし、ぼくも『連想式推理虫メガネ』で推理だ!」
連想式推理虫メガネ「鈴→金属→お金→スネ夫……」
スネ夫「ぼくちゃん、生まれも育ちも大金持ち!」
連想式推理虫メガネ「スネ夫→ネズミ顔」
スネ夫「ハァ!?」
のび太、ジャイアン、静香はクスクス笑う、。
連想式推理虫メガネ「ネズミ顔→ネズミ→屋根裏!」
静香「鈴は屋根裏にあるのね」
のび太「わかったぞ」

~回想シーン~
ドラえもん「ギャアアア、ネズミだあ!!」
屋根裏から逃げ出したドラえもんはゼエゼエと息を切らしている。
ドラえもん「だけど、このままにしておけない! もう一度!!」
ドラえもん「ギャアアアアアアアアア!!
~回想おわり~

のび太「それを繰り返してボロボロになったんだ」
ドラえもん「うん……」
スネ夫「あの鈴、壊れてるんでしょ?」
ドラえもん「でも、あれはネコ集め鈴で、ネズミよけのお守りだったんだ。ぼくは……あれが無いと夜も眠れないんだああ!」
ドラえもんは号泣する。
のび太「その気持ち、ちょっと分かるな」
のび太の視線には部屋に飾られているおばあちゃんのダルマ。
静香「特別な想いがある物って、あたしにもあるわ」
静香は昨日のネックレスを思い出すように胸に手を当てる。
ジャイアン「スネ夫、屋根裏まで取りに行け!」
スネ夫「なんでぼくが?」
ジャイアン「スネ夫がネズミに連想式で近いからだ!」
スネ夫「やだよ、ホコリまみれになるじゃん!」
それを聞いてドラえもんが起き上がる。
ドラえもん「『入れ替えロープ』がそこにある。ぼくとスネ夫の体を入れ替えて、屋根裏に行けば汚れるのはぼくだよ」
スネ夫「ふ~ん。じゃ、やってやるよ」
ドラえもんとスネ夫は横に並んで立つ。
ドラえもん「ロープの端っこを持って」
スネ夫「あいよ」
ドラえもんとスネ夫はお互いにロープの端と端を持つと、体が入れ替わる。
しかし、他人から見ると入れ替わったのかどうか分からない。
のび太「ドラえもん?」
スネ夫は昨日のことを根に持っていた。そして、この状況はスネ夫の悪戯心をくすぐった。
ドラえもん(の姿をしたスネ夫)「よお! ダメ男ののび太君!」
それを聞いて、のび太は入れ替わったことを理解出来ず激昂する。
スネ夫(の姿をしたドラえもん)「本当のぼくはここ……」
スネ夫(の姿をしたドラえもん)の言葉を聞き終えずにのび太はドラえもん(の姿をしたスネ夫)に罵声を浴びせる。
のび太「なんだと、このフーセンダヌキ!」
スネ夫(の姿をしたドラえもん)「フーセンダヌキとは何だ!?」
ジャイアン「ややこしいケンカすんなよ!」
ジャイアンと静香はやれやれと呆れかえる。
そんなドタバタの中、ドラミが押し入れからやってくる。
ドラミ「お兄ちゃん! 元気!?」
スネ夫(の姿をしたドラえもん)「ドラミ!」
ドラミ「タイム電話に出てくれないんだもん!」
ドラミは正体に気付かないままドラえもんの姿をしたスネ夫に話しかける。
スネ夫は更なる悪戯心を起こす。
ドラえもん(の姿をしたスネ夫)「あれれ? もしかして太った?」
ドラミ「な、何ですって!?」
ドラえもん(の姿をしたスネ夫)「また太ったの? ロボットも太るんだね。アハハハ!!」
ドラミ「おにいちゃんっ!?」
見る見るうちにドラミは怒りで顔が真っ赤になっていく。
スネ夫(の姿をしたドラえもん)「ぼくはここだって!」
しかしドラミは当然ながら聞いていない。ずっとドラえもんの姿をしたスネ夫を睨み付けている。
ドラえもん(の姿をしたスネ夫)「なーんて、冗談だよ。アハハ! ……じょ、冗談! 」
軽い悪戯では済まないほど怒り狂っていることに、今更スネ夫は気付くが、もう遅い。
ドラミ「お兄ちゃんのバカァ!!」
ドラミは1万馬力で、ドラえもんの姿をしたスネ夫を殴りつける。
ドラえもん(の姿をしたスネ夫)「デェ~ッ!!」
吹っ飛ばされたドラえもんの姿をしたスネ夫は、天井に穴を開け、結果的に屋根裏に辿り着く。
ドラえもん(の姿をしたスネ夫)「イデデデ……ん?」
良く見ると、屋根裏の片隅で何かがうずくまっている。ネズミよりもずっと大きい。
ドラえもん(の姿をしたスネ夫)「ン~??」
うずくまっていたのは、鈴をモチーフにしたぬいぐるみのようなものだった。
ドラえもん(の姿をしたスネ夫)が呆気に取られていると、ぬいぐるみは、ドラえもんの姿を見て、表情は恐怖で歪み、顔色は真っ青になり、突如猛スピードで走り出して、先程天井に空いた大穴から逃げ出した。
のび太「えっ!?」
静香「なに!?」
ドラミ「わっ!?」
スネ夫の姿をしたドラえもん「うわっ!?」
ジャイアン「なんだぁ!?」
突如上から降ってきた謎の物体に皆が驚く。
ぬいぐるみはパニックになったように部屋を走り回った後、床に落ちていた四次元ポケットへの逃げ込んだ。
暫し、唖然とする一同。
のび太「何だったの?」
スネ夫(の姿をしたドラえもん)「鈴の、ぬいぐるみ?」
訳もわからないまま、のび太は試しに四次元ポケットの中を覗き込んでみる。
のび太「うわーーっ!!」
その光景に、のび太は腰を抜かしそうになるほど驚く。
のび太「み、見てよ! これ!!」
なんだなんだ!? と一同もポケットを覗き込む。
「うわぁ~っ!??」
そして一同も叫ぶ。
何故なら四次元ポケットの中に、地球と同じような空間が広がっていたからだ。
それはまるで、どこかの北欧の町のような光景が広がっており、更に中央には巨大な城がそびえ立っていた。


フランス コルマール街のイメージ



城はモンサンミシェルのイメージ



スネ夫(の姿をしたドラえもん)「なんだこりゃあ!!」
ドラミ「どうしたらこんなことになるの!?」
ドラミはドラえもんの姿をしたスネ夫の肩を揺さぶり問い詰める。
ドラえもんの姿をしたスネ夫「ぼ、ぼくに聞かないでよ!」
ジャイアン「お前ら元に戻れーーっ!!」

引き続き、のび太の部屋。
埃塗れになったドラえもんは体を拭いている。
ジャイアン「よ~し、ポケットの中へ行こうぜ!」
スネ夫「行こうぜぇ!」
のび太はシャーロック・ホームズセットを身に纏う。
ドラえもんは落ち込んでいる。
ドラえもん「鈴がぼくの姿を見て逃げた……?」
のび太「その謎は、ぼくが解いてみせる!」
スネ夫「いや、ぼくのSUNEPADが解決するさ」
スネ夫は服の中にSUNEPADを挟んでいた。(ズボンと体の合間に挟んでいる)
ジャイアン「持ってきてたのか!」
スネ夫「当然さ!」
ドラミ「みんな、わたしのタケコプターを使って!」
のび太「それじゃあ行こう!」
一同「オーッ!」

タケコプターでドラえもんたちは四次元ポケットの中を飛ぶ。
高度は50メートルほど。
目の前には森と湖が広がっており、遠くに見える町まで500メートルといった所。
のび太「あ、あれを見て!」
一見すると緑色の固まり、そうでなく、何かの群れがドラえもん達に近付いてくる。
やがて、その正体を視界に捉える。
ウマタケ「ヒヒ~ン!!」
のび太「ウマタケだ!」
ドラえもん「あんなにたくさん!?」
空を飛ぶ渡り鳥のような、おびただしい程のウマタケが群れを成している。
その群れはドラえもんの姿を横目で見ながらも、どこかへ猛スピードで走り去ってゆく。
群れはどうやら町へと走ってゆくようだ。
静香「ついてきてって言ってるみたい」
ジャイアン「行こうぜ!」
ドラえもんたちは群れと併走するように、町並みへと向かう。
のび太「良く見るといろんなひみつ道具が飛んでるよ」
ドラえもんの視線の先には虫のような道具。
ドラえもん「あれは頭に止まると予感が的中する『よかん虫』、あれは落ちているお金を拾ってくる『カネバチ』」
ドラえもんの視界の先には鳥のような道具。
ドラえもん「あれは……ええっと」
わすれ鳥「ワスレタワスレタ」
ドラえもん「そうだそうだ。忘れ物を教えてくれるわすれ鳥だ!」
ドラミ「待ってよ。わすれ鳥は空を飛ばないわ」
ドラえもん「ということは?」
ドラミ「おしゃべりドリンクの影響で、変形してるのね」
ドラえもん「ポケットも鈴もコーティングされてたのに」
ドラミ「穴が空いてたのよ。定期健診に行かないから!」
ドラえもん「ウッ……」
のび太「じゃあ、この世界はひみつ道具が作ったの!?」
ミチビキエンゼル「そのとおりです!」
突然、ドラえもん達の前にミチビキエンゼルが現れる。
ドラえもん「ミチビキエンゼル!」
ミチビキエンゼル「お待ちしてました、ドラえもん様! さぁ、始まりますよ」
ドラえもん「はじまる……って何が?」
ミチビキエンゼル「この王国の、カーニバルですよ!」
王国の町で、ピーアールが大音声で呼びかけている。
ピーアール「王国の皆様! ついに我らの王! ドラえもん様がやってきましたよー!!」
王宮の影でスタンバッているいくつものタケコプターたち。
タケコプターA「ドラえもん様だって!?」
タケコプターB「ついにやって来たんだ!」
王宮の庭でふくびんコンビが叫ぶ。
ふくびんコンビ「飛ばせ、我らの気球!」
ドラえもんを模した気球(ドラバル君)とドラミを模した気球(通常サイズ)に巨大なバーナーで空気が吹き込まれる。
ミチビキエンゼル「奏でよ、祀(まつ)りの音楽!」
王宮のバルコニーに数十人のムード盛り上げ楽団がスタンバイする。
王国のあらゆる建物の窓からひみつ道具が顔をだす。
ピーアール「祝いなさい! 今日は我らの建国記念日です!!」
居ても立ってもいられないとばかりに、何千というひみつ道具が建物から飛び出してくる。
ひみつ道具たち「ポケットのヒミツ王国へ、ようこそ!!」
ひみつ道具達の超大歓声が王国に轟く。
王宮から数百ものタケコプターが飛び、風船が飛び、気球も浮かぶ。
巨大な花火も打ち上げられ、楽団の音楽は空へと響き渡った。
のび太「すごい歓声だ!」
ドラえもん「テヘヘ。ぼくが王様だって」
ミチビキエンゼル「皆様にお話があります。王宮まで来てください」
そう言ってミチビキエンゼルは王国の城まで飛んでいく。今も続く大歓声の中、ドラえもんたちは城の中へと入ってゆく。
城のエントランスホールに到着すると、初老の男性が礼儀正しくドラえもんに敬意を払うようにお辞儀する。
オールマイティパス「ようこそ、ドラえもん様。ポケットの出口が塞がれてましたので、迎えに行けず、申し訳ございませんでした」
ドラえもん「あなたは?」
オールマイティパス「私は『オールマイティパス』でございます」
ドラえもん「えっ!? どこにでも入る事が出来るパスポートだったのに!?」
オールマイティパス「おしゃべりドリンクの影響です。皆様をおもてなしする役目を担っております」
ドラえもん「なるほど……」
のび太「それで、ドラえもんが王様っていうのは?」
オールマイティパス「『タイムテレビ』!」
タイムテレビ「あいよー」
オールマイティパスが指を鳴らすと、テレビから手足が伸びたようなキャラが、こちらに走ってくる。
一同はタイムテレビの画面に注目するが、テレビ画面が眩しく光り、壁一面に画面の映像が投映される。
スネ夫「プロジェクションマッピング!」

オールマイティパス「ドリンクの力で我々は、ここで何か出来ないか考えました」

ここで映し出されるのは映像というより、「最後の晩餐」の絵画のようなスライドショー。
「最後の晩餐」の絵のようにミチビキエンゼル、みちび機、ふくびんコンビ、ロボットふくの神、ひょうろんロボット、オールマイティパスなどが座る。
ユダの位置に、オールマイティパス。

オールマイティパス「ポケットの中は超空間。大きさも重さも関係ない世界です。我らの主、ドラえもん様に恩返しする為に王国を築き上げたのです」
オールマイティパス「ここはみなさんに楽しんで頂くための国です。好きに遊んでください」
ジャイアン「ホントかよ!?」
スネ夫「やったね!」
浮かれるのび太達。未だに信じられないという顔をするドラえもん。
オールマイティパス「そして、お姫様となる方も、既に決まってます」
ドラえもん「姫!?」
ドラミ「つまり結婚相手!?」
オールマイティパス「はい。では連れて来なさい!」
扉の向こうで騒がしい声が聞こえてくる。
ガードマンロボットA「暴れるな!」
ガードマンロボットB「おとなくしろ!」
ベル「はなせー!」
何事かと目を丸くしているドラえもんたち。
やがて扉は開かれて、ガードマンロボットに取り押さえられたネコ集めすずのベルがやってくる。
ドラえもん「ああっ!? あれはあの時の鈴!?」
ベル「……!?」
ベルはドラえもんの声に反応すると、忌々しげに顔を背ける。
ドラえもんの側まで近付くと、ガードマンロボットは乱暴にベルを投げ捨てるように放り出し、どこかへと消えていった。
オールマイティパス「これが、お姫様となる、ネコ集め鈴のベルです!」
ドラえもん「鈴と!?」
のび太「結婚!?」
ベル「…………」
ドラミ「どういうこと?」
オールマイティパス「それは……」
一向に顔を背け続けるベルに対し、ドラえもんはもじもじしながらベルに近付く。
ドラえもん「あの、こんにちは。ぼくドラえもん……」
話の途中でベルが呟く。
ベル「誰が……」
ドラえもん「え?」
ベル「誰があんたのお嫁さんになんかなるもんかー!!!」
ドラえもん「ぐえっ!?」
大声で叫び、ドラえもんをなぎ倒し、また何処かへと走り去ってしまった。
オールマイティパス「おっ、追え!」
慌ててガードマンロボットたちが追いかけ、大量の正義のパトカーがサイレンを鳴らして飛び出していった。
のび太「すごく嫌がってたね」
スネ夫「相手が中古ロボットじゃね」
ドラえもん「なんだと!?」
オールマイティパス「実は、姫になりたい道具はたくさんいたのです」
ドラえもん「ほんと!?」
スネ夫「こんなのに!?」
オールマイティパス「はい。しかし……」
~回想シーン開始~
(時刻は朝5時過ぎの話だが、王国は昼間のように明るい)
町中にポツンと置かれたカメラ。
ミニ探検隊「ピヨピヨ」
レポーターロボット「ああっっと! ミニ探検隊が何かを発見した模様です!」
なんだ、なんだ、とひみつ道具たちが集まってくる。
神様ロボット「こんな道具あったかいの?」
腹話ロボット「さあ?」
宇宙完全大百科「これは、値ぶみカメラですね」
神様ロボット「お主は宇宙完全大百科!」
宇宙完全大百科「価値がわかる道具です」
腹話ロボット「お宝を鑑定できるの?」
宇宙完全大百科「はい。更に撮影者の主観的な価値を測定出来ます」
オールマイティパス「つまり、誰が一番ドラえもん様を大切に思っているか分かると?」
○×占い「ピンポーン!」
オールマイティパス「よし、ならば我らの姫をこれで探そう!」
回想シーン中断。
ドラミ「値踏みカメラ?」
ドラえもん「セールスマンに押しつけられたお試し品だよ」
回想シーン再開
ロボ子「わたしは10万ポイントよ!」
いたわりロボット「わたしは20万ポイント」
リポーターロボット「みなさんものすごいポイントです! おや?」
リポーターロボットが疲れた顔をして蹲っているベルの姿を発見する。
リポーターロボット「あなたのポイントは?」
ベル「あ、あたしは興味無いから……」
リポーターロボット「そんなこと言わず! さあ!」
リポーターロボットがベルをムリヤリ引っ張ってきて、カメラを持たせる。
ベルの目の前に、「動物観察ケース」が置かれる。
「動物観察ケース」とはケースの中に別の空間を繋ぐ道具である。
ケースには寝ているドラえもんの姿があった。
オールマイティパス「このケースを撮影してください」
嫌々ながらベルがシャッターボタンを押すと、値踏みカメラからベルが映った写真が出てくる。
写真の裏には4つのボタンが存在しており、右下のボタンを押すと、主観での価値が写真に表示されるのだ。
カシャカシャカシャカシャカシャ…………。
写真のケタが異様なスピードで回ってゆく。
オールマイティパス「凄い!」
レポーターロボット「100万……いや、1000万!?」
ベル「えっ? うそ!?」
オールマイティパス「決まりですかな」
レポーターロボット「おめでとう! お嫁さんに決まりました!」
それを聞いて、ひみつ道具たちは盛大に拍手する。
ベル「違う……、わたし、そんなんじゃ……!」
腹話ロボット「お幸せに!」
神様ロボット「めでたいのお」
オールマイティパス「それじゃ、一緒に来なさい」
ベル「イヤーッ!!」
あれよあれよとガードマンロボットにベルは囲まれるが、僅かな隙間から抜け出して、ベルはひたすら逃げていった。
回想シーン終わり
ドラミ「それで、ポケットを抜け出して、屋根裏に隠れたのね」
オールマイティパス「こちらがその写真です」
静香が受け取ると、数字は未だに回り続けており、現在40億を突破している。
スネ夫「すっげえ数字!」
のび太「でも嫌われてたよね」
ジャイアン「壊れてんじゃん」
男達はニヤニヤ笑っているが、静香は写真を眺めながら、何かを考え込んでいる。
静香「……失礼」
静香はのび太から、推理ぼうを取り上げる。
静香は推理ぼうを被り、ピンと叩く。
静香「写し方だけで、撮影者の気持ちはわかるものよ」
暫し目を瞑った後、目を開く。
静香「ドラミちゃん。これは……」
ドラミ「わかってるわ。でも……」
ドラミは急に顔を曇らせる。
静香に耳打ちするようにドラミは言う。
ドラミ「永久に効き目の続く道具は無いの。この王国は、明日の朝までよ」
静香「……そう」
静香は使命感に溢れた顔で両手を握りながら言い放った。
静香「じゃあ、あたしが結婚式をプロデュースしてあげる!」
ドラえもん「エエーッ!?」
ドラミ「わたしも協力するわ!」
のび太は露骨に嫌がる。
のび太「ぼくを残して結婚しないでよ~!」
静香は苛立ったように推理ぼうをのび太に乱暴に被せる。
静香「あんたはベルちゃんを探して!」
のび太「は、はい……」
スネ夫「じゃ、僕は披露宴の衣装を考えよう!」
ジャイアン「ラブソングでも練習すっかな!」
ふたりはどこかへと行ってしまった。
ドラミ「もうっ!」
オールマイティパス「我々が手伝いましょう」
王宮の外。ジャイアンとスネ夫。
ジャイアン「何が結婚式だっつうの!」
スネ夫「そうそう!!」
大勢の若者たち「ジャイアンさま~!!」
見知らぬ若者48人がジャイアンに詰めかける。
若者は皆、何かのバッジを付けている。
若者A「新曲はラブソングですって!?」
若者B「この日を待ってました!」
スネ夫はバッジの正体に気付く。
スネ夫「これ、ファンクラブ結成バッジ!?」
ジャイアン「前におれのファンクラブを作ったぞ!」
若者たち「ぼくらはGTF48(ジーティーエフ フォーティーエイト)です!」
スネ夫「ゴウダ・タケシ・ファン、48人!?」
ジャイアンはその熱烈ぶりに涙を滲ませる。
ジャイアン「新曲を作ろう! 今夜盛大に発表する!!」
若者たち「やったぜタケシ!! TA・KE・SHI!」
スネ夫「くわばらくわばら……」
その場から離れようとするスネ夫の前に、魔法使いのような女性が突如現れる。
魔法使い?「スネ夫さま……」
スネ夫「うわっ!?」
ジャイアン「おい、スネ夫! ……あれ?」
ジャイアンがまわりをキョロキョロとするも、スネ夫の姿は無かった。

ひみつ王国の町中にいるのび太。
のび太「レーダーステッキ!」
ステッキはのび太に対して前方向に倒れる。
のび太「この方向に失踪者がいる。だけど……」
ころばし屋「ドラえもんがネズミから逃げる速度は?」
のび太「129.3キロ! って、え?」
声が聞こえた方向にのび太が振り向くと、建物の影でタバコに火を点けているころばし屋の姿があった。ころばし屋の胴体はサッカーボール程度の大きさとなっていた。
ころばし屋「目標はその速度で移動してる。追うのは無理だ」
のび太「……ころばし屋! 10円で誰でも転ばすプロ!」
ころばし屋「ああ。不可能を可能にするのが、プロだ」
のび太「追いつく方法があるの!?」
ころばし屋「ある。だが……」
ころばし屋は胸元に手を入れると、まるでそこが四次元空間のように、リボルバーの銃を取り出して、のび太に投げつけた。
のび太「これは?」
ころばし屋「そいつで、あの看板に、穴を開けてみな」
のび太「ええっ!?」
看板とは、軒下にぶら下がったもので、ドラえもんが描かれており、距離は20メートルほど。しかし、のび太にとって距離の問題では無い。
ドラえもんの顔に穴を開けることに躊躇しているのだ。
ころばし屋「出来ないのか? ホームズ」
ころばし屋が突然ホームズと呼んだことにのび太は目を丸くする。
ころばし屋「その空気銃はブリティッシュ・ブルドッグ・リボルバー。イギリスではシャーロック・ホームズの名で呼ばれている」
のび太「…………」
のび太は思わず唾を飲み込む。明らかに欲しがっている目をしていた。
ころばし屋「その銃もくれてやる。さあ撃て!」
のび太は看板に銃を向ける。
ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ドン!!
幾多も放たれる銃声。看板は猛烈な勢いで揺らされ、大きな穴が空いた。
ころばし屋「ほう。見事だ」
のび太「…………」
のび太に言葉は無かった。
ころばし屋「目標は、10分後に噴水の前を通る。そこを狙え」
のび太は礼も言わずにその場を立ち去った。
?????「見~事ですねえ!!」
ころばし屋に飛んできたのは糸なし糸電話である。
ころばし屋「これで依頼通りだな」
?????「楽しみですね! 本当に彼らが戦いあう、その瞬間!」
ころばし屋「……」
?????「ハハハハハハ!!」
糸電話はどこかへ飛んでいった。
ころばし屋は歩き、地面に落ちた看板の大きな欠片を拾い上げる。
ころばし屋「楽しみだ」
その欠片、看板に大きく描かれたドラえもんの顔にひとつも弾痕はない。全てその外側を狙ったものだった。これだけでも神業だが。
ころばし屋「ヤツと俺が戦う、その瞬間がな」
欠片はハートの形に切り取られていたのだった。

のび太レコードのレコーディングスタジオ
ファンと一緒の机に並んでジャイアンは会議を続けている。
若者A「デビューシングル『乙女の愛の夢』のような……」
ジャイアン「甘く切ない歌詞とメロディーか」
ジャイアン「今夜発表だと時間がないな……」
時計の時刻は5時を回っている。
電光丸「ご免」
ドアに突如、顔に傷がある男が立っていた。
電光丸「実はいい道具を持ってきた」
ジャイアン「へえ?」
電光丸がカバンから取り出したのはCDが何枚も入ったボックスセットである。
電光丸「『能力ディスク』。様々な能力が手に入る」
ジャイアン「作詞・作曲家。歌手まであるぞ」
電光丸「1流のシンガーソングライターになれるぞ」
ジャイアン「いや、いらない。おれは才能がある!」
電光丸「ほう? なら、これはどうだ?」
電光丸はカバンから大きな缶詰のような道具。カンヅメカンを取り出した。
電光丸「カンヅメカンだ。中は時間がゆるりと流れ、集中出来る」
ジャイアン「なるほど! いい道具だな!」
早速入ろうとするジャイアンに男は制するように手を伸ばす。
電光丸「缶から出るためには条件がある」
ジャイアン「条件?」
電光丸「お主が人を感動させるものを、作るまでは出られぬぞ!」
ジャイアン「へっ、俺にはこんなにファンがいる。作れるさ!」
ジャイアンは何も臆せず缶詰に入った。
電光丸「……能力ディスクも入れておくぞ」
ジャイアン「いいってのに」
そして缶は閉じられた。
その瞬間、電光丸は目にもとまらぬ速さで動き、その場に居た48人全てからファン結成バッジを取り外した。
若者A「あれ……僕は一体?」
若者B「こんなヒドイ歌、聞けたもんじゃないわね」
正気に戻った若者達は建物から去っていった。
電光丸「これで、感動する者など居なくなった」
?????「予定通りですねえ、電光丸さん」
先程の糸なし糸電話と同じものが電光丸の側を飛んでいた。
電光丸「クーキーは?」
?????「逃げられたそうです」
電光丸「だが、計画は成功するだろう」
?????「彼はディスクを使わないと一生出られない。ヒヒヒ、ハハハハハ!!」
糸なし糸電話は消えた。
電光丸「…………すでに、中は3時間を経過している」
電光丸は缶の前で座禅を組む。
電光丸「時間はある。タケシどの、悩むがいい……」

王宮では静香の指示で慌ただしくひみつ道具たちが働いていた。
静香「フラワーシャワーに赤のバラはダメ! ドレスに付くから」
ドラミ「キャスケードブーケは垂らす感じに作るの!」
そんな様子を王座に座っているドラえもんは、ボンヤリしながらどら焼きを食べていた。
ドラえもんの側に立っていたオールマイティパスが口を開く。
オールマイティパス「用意させた北海道産どら焼きはいかがですか?」
ドラえもん「うん……」
ドラえもんはまるで自動的に食べているかのようだった。
オールマイティパス「何故に、定期健診を嫌がるのですか?」
ドラえもんの手が止まる。
ドラえもん「……それは」
オールマイティパス「異常が発見されるのが、怖いのですか?」
ドラえもん「それもあるけど……」
ドラえもんは苦笑いする。
ドラえもん「ぼくがもし入院したら、のび太がひとりになっちゃうからね……」
オールマイティパス「それが心配だと?」
ドラえもん「う、うん……」
オールマイティパス「……フーム。のび太様の為に犠牲になってもいいと?」
ドラえもん「そう……かもね」
オールマイティパス「……まさにのび太様の道具ですな」
ドラえもん「え?」
オールマイティパス「技術・道具・科学とは人間の為にあります。我ら道具は人間の犠牲になるべきでしょう」
オールマイティパス「ドラえもん様はまさにのび太様の道具となっておられます」
ドラえもんはいきり立つ。
ドラえもん「ぼ、ぼくは! ぼくらはそう思ってない!」
それに対してオールマイティパスも強い口調で接する。
オールマイティパス「なればこそ、体を大事になさいませ!」
それを聞いて、ドラえもんはしょげたように椅子に座り直す。
ドラえもん「あっ、……うん」
オールマイティパス「のび太様も、それを望んでいるはずです」
ドラえもん「……そうだね」
オールマイティパス「私は、この王国の誰も犠牲にさせたくないのです」
感傷に浸るドラえもんの隣で、オールマイティパスは人知れず口元を歪ませていた。

現代ののび太の部屋。
のび太の机の引き出しがガタガタと震え出す。
そして引き出しの超空間から、スーツを着た男が飛び出してくる。
ヨドバ氏「ドラえもん様~?」
ガランとした部屋に返事は無い。
ヨドバ氏「ヨドバでございます~。んー? お留守のようですねえ」
話をしておいたはずなのに、とヨドバ氏は首を傾げる。
ヨドバ氏「それにしても、まあ……」
ヨドバ氏はしげしげと部屋を眺める。
ヨドバ氏「古くて! 狭くて! 汚い部屋でしょうか!」
ヨドバ氏「よれよれのカーペット!」
ヨドバ氏「このフスマは、何年間張り替えてないでしょう!」
ヨドバ氏「『もったいない精神』がここにある!」
野比家、一階、居間。
ヨドバ氏「奥様!」
ママ「えっ!?」
背後から突如声を掛けられたママは目が点になる。
ヨドバ氏「私、セールスマンの、ヨドバと申します」
ヨドバ氏「昭和の香り漂うこの家屋、後生まで残したいと思いませんか?」
ママ「ハァ?」
ヨドバ氏「そこで私が提案したいのはリフォームです」
ヨドバ氏は胸ポケットから電卓を取り出す。
ヨドバ氏「壁クロス張り替え、ユニットバス、屋根の葺き替えなどで……」
ヨドバ氏はママに電卓を見せつける。
ヨドバ氏「これくらいになります!」
ママ「……!?」
1000万円を超える額に、ママの顔は凍り付く。
ヨドバ氏「どうです? 工事は2ヶ月で済ませますよ!?」
ママは目を三角にして睨み付ける。
ママ「うちは結構です!」
慌てて部屋から逃げ出すヨドバ氏。
のび太の部屋まで慌てて戻ってくる。
ヨドバ氏「やれやれ……それにしてもドラえもん様はどちらに?」
ヨドバ氏「おや?」
床に落ちている四次元ポケットが、ヨドバ氏の目に止まった。

王国の街。
ベルは猛スピードで走り続けていた。
ポケットの外へ出ようにも出口は完全にガードマンで固められている。
王国広場を駆け抜けようとした時だった。
ベル「ええーっ……!?」
信じられないとばかりに足を止めてしまう。
噴水の周りにネズミが何十匹と走り回っていたのだ。
ベル「こんな光景をドラちゃんが見たら失神しちゃうじゃない!」
ベルが慌ててネズミの群れに突っ込んでいく。
ベル「コラーッ! あ、あれ!?」
ネズミがそこにいるはずなのに、触れることが出来ず、ベルの体を通り抜けてしまう。
ベル「これは……!?」
のび太「なるほど、確かに君はネズミよけのお守りだね」
背後から現れたのはのび太である。
その隣には、コンビニ等のレジに形が似ている機械があった。
ベル「万能舞台セット!」
万能舞台セット「はい。彼らはエキストラなのであります!」
ネズミの大群が消え、万能舞台セットは立ち去る。
のび太「捜査にご協力感謝します!」
のび太はベルの方向へ振り向く。
のび太「さて君の話を聞かせてほしい」
ベル「……はぁ」
観念したようにベルは大きな溜息を吐いたのだった。

王国の噴水で腰掛けるのび太とベル。
ベルから話を聞くのび太。
のび太「交換!?」
ベル「あたしのことを新品と交換しようとしてるの!」
のび太「ドラえもんが……」
ベルはふて腐れたように、ぷいと顔を背けた。
ベル「……どうせあたしなんか、壊れっぱなしの不良品だもん! ……本当に
ゆるせないんだから」
ベルは寂しげに耐えきれなくなってきたのか小声になる。
しかし、疑問に思ったのび太は首を傾げる。
のび太「そうかなぁ? ドラえもん、鈴が無くなった時にものすごく泣いてた
よ?」
ベル「エッ!?」
のび太「ぼくの大切な鈴が無くなっちゃった~! ってね。君がいないと、夜も眠れないって」
ベル「ウソウソウソ! そ、そんなハズ、ないわよ! ちがうもん、大切に思っ
てくれてたのなら、壊れっぱなしのまま、放っておくわけないもん!」
のび太「まあまあ。何か事情があるんだよ。きっとね……」
ベル「……ドラちゃん……」
のび太「直接聞いてみようよ。みんな君のことを待ってる」
ベル「……あたしは……」
スネ夫「ハーッハッハッハ!!」
ベルが何か言いかけたとき、上空から車が飛んできた。
ロールスロイス・ファントムの白が、空中を飛んでのび太達に向かってきている。
とてつもない高級車が何故か空を飛んできたことに、目が点になるのび太とベル。
そこからタキシードに身を包んだスネ夫が得意げに降りてきた。
スネ夫「やあ~諸君!」
のび太「スネ夫!」
スネ夫「いいだろう!? このロールスロイスのファントム! メカ・メーカーで作った! この服も着せ替えカメラで作ったんだ!」
魔法使い「さあ、お乗りください」
のび太「この人は?」
スネ夫「話はあと! さあ乗りなよ、シンデレラ! 今宵のトカゲはサービスしとくよ!」
ベル「もしかして、それあたし!?」
スネ夫「そう! 早く乗って」
ベル「う、うん」
何となくの流れで、ベルは車に乗り込んだ。
ハンドルを握るのはスネ夫で、魔法使いの女性は助手席に座る。
魔法使い「お姫様。あなたは魔法に必要な、ネズミとカボチャを捕まえました」
ベル「シンデレラの話ね。ネズミは捕まえたけど?」
スネ夫「あとはそこのカボチャ頭さ!」
のび太「ぼくのこと? どういう意味?」
ベル「中身がスッカラカン」
スネ夫「そういうこと! アーッハッハッハ!」
のび太は眉をひそめて、苦笑いを浮かべる。
車は浮遊し、王宮へと向かう。
のび太「ところで、ジャイアンは?」
スネ夫「歌手活動してるよ。ファンの為にね」

カンヅメカンの経過時間は既に3日を超えた。
電光丸は未だに座禅を組んでいる。蓋は開かれない。
次の瞬間、突如として蓋が開かれた。
ジャイアンは静かに、俯きながら缶から出てくる。
電光丸はニヤリと笑った。
その電光丸に対して、ジャイアンは紙に書いた歌詞を突きつける。
不敵な笑みを浮かべたまま、電光丸は眺める。
電光丸の顔がみるみるうちに、真顔に、やがて神妙な顔つきに変わっていく。
ジャイアン「……それで、おれのファンはどこだ?」
電光丸「……お前のコンサート会場だ」
ジャイアン「悪いけど、おれは今回歌わないんだ」
電光丸「知っている」
ジャイアン「ふぁあ~」
ジャイアンは疲れからか、そのままその場で寝てしまった。
電光丸「なるほど。確かにお前は3日間何も使わなかった」

のび太・ベル・魔法使い・スネ夫を乗せたロールスロイスは王宮に辿り着いた。
オールマイティパス「ベル様。お待ちしておりました」
ベル「…………」
ベルは不愉快なようにオールマイティパスから目を背けた。
オールマイティパス「ドラえもん様がお待ちです」
ベル「わかってるわ」
そう言ってベルは勝手に行ってしまった。
オールマイティパス「さて、私はまだ準備することがありますので……」
のび太「…………」
去って行くオールマイティパスの後ろ姿を、のび太は何か引っかかるような訝しげな顔で見つめていた。

つづく。



ここは「2013年映画ドラえもんを勝手に自作するブログ http://blog.livedoor.jp/doraeiga2012/」の情報をまとめるサイトです。
公式ドラえもん関係各社とは何の関係もありません。


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